いしかわビオトープ交流会では、5月10日に定期総会とともに記念シンポジウム「加賀地域の身近な自然の現状と保全」をおこないました。38名の参加のもと、パネリスト4名の基調報告をうけ、個別の地域の自然現状の報告や里山の保全・再生活動の取り組みの報告など、具体的な情報交換と活発な討論がおこなわれました。
 各パネリストから報告された加賀地域の身近な自然の現状について、大まかな内容を以下にご紹介します。

『南加賀の里山』 加藤明宏氏(金沢ホタルの会)
 加賀地方の里山は多様な環境要素を有している。なだらかな山すそには段々畑や水田があり、山の間に谷筋が深く切れ込み、そこには谷内田が細々ながら作られている。またその谷筋の上部にはかんがい用のため池が多く点在して、生物の多様性が高いと思う。このようなすばらしい自然が残されていることはもっと知るべきと思うし、また知らせることの活動をしなければならないといつも思っている。例えばギフチョウをひとつ取ってみても、生息地はどこでもいいのだよ、どこに行っても出会えるよ、と言うような印象をうける。ただ、バイパスの工事などでギフチヘイケボタルはさすがに平野部で姿を見ることが困難になった。谷内田を始め、里山近くの田んぼにはまだかなりの数が生息している地域もあるものの、私の子供のころのように田んぼのあぜ道を歩いていただけで、顔や体にぶつかってというほどの数ではない。ホタルの復活については、全国的にもいろいろな団体が保護活動や生息地の拡大に取り組んでいるが、ほとんどはゲンジボタルの復活であって、ヘイケボタルに至っては、取り組んでいるところはほとんど無い。現在ゲンジボタルが生息している川の流域でも、橋の付け替え、道路の拡幅などにより、今後の生息が危ぶまれている。今現在も工事主体となる行政と、ホタルの保護についてやり取りをしている。

『ビオトープの観点からみた溜池、沼の調査報告』 本間勝美氏(森の都愛鳥会)
 森の都愛鳥会では平成11年9月から平成14年10月まで、金沢市72ヶ所、津幡13ヶ所のため池の調査をおこなった。外観から、各池の自然状態を4段階のランク分けをして評価した。また、魚・貝類、両生類、水生昆虫、池周囲の昆虫・野鳥、水草類、周辺の植物などの生物の調査をおこなった。さらに、ブラックバスの有無について調べた。
 津幡には自然の池が多く残っていたが、コンクリートやゴムシートで人工化が進んでいる池も多くみられた。埋め立てられてしまった池や枯れ池となったものも確認された。
 魚・貝類では、タニシやカワニナ、カラスガイ、エビ、ドジョウ、フナ、コイ、メダカなどがいくつかの池から確認された。両生類では9種類のカエルが確認されたが、外来種のウシガエルも5ヶ所で確認された。また、クロサンショウウオが5ヶ所で確認された。      
 水生昆虫では、タイコウチやマツモムシが数カ所で確認された。トンボ類は28種類を確認した。水草は、半分ほどの池で確認され、15種類を数えた。3種類以上の水草があった所も11ヶ所あった。

『金沢市周辺の里山の猛禽類(ワシタカ類)』 白井伸和氏(地域植物研究会・河北潟湖沼研究所)
 金沢市周辺の里山に生息する猛禽類を継続的に調査している。おもに個人の調査であり、不十分な点もあるが、いくつかのタカについての生息状況がわかってきた。現在金沢市周辺には、レッドデータブックに掲載されている11種の猛禽類が生息している。このうち里山の部分で繁殖するのは、オオタカ、サシバ、ハチクマ、ミサゴ、ツミである。本日はツミを除いた4種の生息状況を紹介する。オオタカは5ないし8つがいほど生息していると思われる。サシバは例年20−30つがいが繁殖しているものと思われる。ハチクマは詳細は不明であるが、営巣は3齢ほど確認している。ミサゴは今年21巣を確認している。

『湖沼と湿地−河北潟西部承水路の観察から』 永坂正夫氏(金沢星稜大学)
 河北潟西部承水路において1995年と2002年に調査を実施したところ、それまで優占種だったトチカガミとアサザにかわって、外来種であるチクゴスズメノヒエとホテイアオイが優先しているのが確認された。これらは西部承水路の堆積速度と関係が深いものと考えられる。こうした事例は、人為的な改変を受けやすい身近な水域での在来種の保全についてあらためて考える必要があることを示している。

(配信日:2003年6月10日;河北潟湖沼研究所HPより許可を得て転載)

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